大分合同新聞 法律あれこれ「既婚者の子出産、直後に別れ話」 清源万里子弁護士/記事PDF

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既婚者の子出産、直後に別れ話

Q 私の娘が妻子ある男性の子を出産しました。男性は「妻と別れて結婚する」と言っていましたが、出産した直後に突然、別れ話を持ち出してきました。男性に対して慰謝料を請求できますか。


A 将来結婚しようという当事者間の合意を「婚約」といいますが、婚約する当事者の一方または双方が法律上婚姻している場合は、「重婚的婚約」となります。婚約がさらに、事実上の夫婦として生活する内縁にまで発展すれば「重婚的内縁」となります。

 重婚的婚約が有効か無効かについては、重婚禁止(民法第732条)との関係で争いがありますが、男性とその妻の婚姻関係が破綻状態にある場合は、重婚的婚約も公序良俗に反せず有効と考えられています。
 この場合、婚約を不当に破棄した男性は、債務不履行に基づく損害賠償責任を負います。しかし、男性とその妻の婚姻関係が破綻状態にない場合は、重婚的婚約は無効になります。
 男性から独身とだまされていたり、妻子のあることを秘密にされて親密な関係に至った場合は、貞操侵害を理由に不法行為責任を追及できます。一方、男性に妻がいて既婚者と知った上で親密な関係に入った場合は、原則として慰謝料の請求はできません(民法第708条)。男性の違法性が著しく大きい場合には、不法行為責任が認められます(最高裁1969年9月26日判決)。
 妻とは別れると言って内縁生活に入り、子どもを出産直後に一方的に別れたケースで、京都地裁は「被告が原告に与えた精神的苦痛は大きいものがある」として、男性に300万円の賠償責任を認めました。

平成29年8月17日 大分合同新聞朝刊掲載

慰謝料認める判決も